おりんのある日々
永井 朋生
パーカッショニストの僕にとって音が出るものはすべて音楽の要素なのである。それは時に楽器ではなく、石や貝殻、木片だったり、鉄のかたまりであったりする。常に病のように面白い音を探し続けている。
僕の大事にしている楽器の中に「おりん」がある。それは7年前の3月11日の午前中に一度も会った事のない人から宅急便で届いた。当時僕は金属の余韻の長い音を探していて、おりんにたどり着いた。しかし入手方法がわからず、インターネットで片っ端から仏具屋さんを調べ、電話をかけまくった。音楽に使いたいとの事を話すと、たいていの店ではあまり良い反応をもらえなかった。数十件かけてやっと話を聞いてくださるお店に出会った。店主の女性は丁寧に僕の話を聞いてくれ、「ちょうど色が少しはがれていて売り物にならないおりんがあるので、よろしければお役立て下さい」と見ず知らずの僕に丁寧な手紙を添えて送って下さったのだった。その箱を開けて、初めて音を出してみた時の空気中に広がる豊かな、甘いような音の響きは今も鮮やかに耳に残っている。
このおりんを使って音楽を作り始めてから僕の音楽活動はガラッと変わった。かつて僕はJAZZドラマーとして演奏活動していたが、かねてよりの夢であったパーカッションだけのソロ活動を始めることができた。ブラジル、フランス、アイスランド、モロッコなどの海外ツアーや多くの国内ツアーをおりんと一緒に旅した。おりんに連れて行ってもらっているような気持ちになった。おりんを中心に要塞のような大きな楽器のセットアップが出来上がって、コンサートや映画、舞台の音楽の中で7年間ずっと一緒に活動を共にして来た。
このおりんを送ってくださった方に直接感謝の気持ちを伝えることはできていない。岩手県大槌町から送られて来たおりん。当時の混乱の中で多くの人々をたどって家族の方と出会う事ができ、送ってくださった方が津波で亡くなったことを知った。その後何度も大槌を訪れ7年の月日がたち、事あるたびに連絡を取り合う仲になった。おりんは今もいつも僕と一緒に音楽を奏でてくれる。演奏を続けられる日々をしみじみと幸せに思っている。