「桜葉(さくは)・胡桃(くるみ)元気ですか?」
河合 芽

 私の朝は、おりんを鳴らすことから始まります。今年の春に、お腹に宿った双子の娘を天国へ見送りました。
 結婚して七年。私達夫婦がずっと待ち望んでいた妊娠。双子と分かり、とても喜んで、いろんな準備を始めていました。ですが冬の終わり、妊娠4ヶ月目に入る頃でした。急な出血で切迫流産となり、入院することになったのです。2ヶ月近い絶対安静の毎日を親子で頑張ってきたのですが、突然の破水・陣痛を止められず、ふたりを出産しました。延命措置がまだ許されない18週の命。産まれたふたりは、そのまま静かに息を引き取りました。入院中ずっと胎盤からの出血が止まらず、私の命が危ない所を、ふたりが命をかけて助けてくれたのだと思っています。そう頭では分かっているのですが、「どうして私ひとりが残ってしまったのだろう。」「お腹の中でしっかり育ててあげられなくて、本当にごめんなさい。」という思いがどうしても離れず、あてのない暗闇を一人とぼとぼ漂っているような毎日でした。
「体の弱い頼りない母だけど、ふたりのために何かしてあげたい。」絶望する日々の中でも、この想いは確かにあって、私は手元供養の仏具を探し始めました。そんな時、山口久乗さんの「ぞうりん」に出会ったのです。「天国のふたりに可愛らしい音を届けたい。」最初はそんな漠然とした思いでした。手元に届いた「ぞうりん」をさっそく骨壺のそばに置き、鳴らしてみました。「りーん」その澄んだ耳心地の良い音が、私の心の奥の隅々まで、響き渡った気がしました。その例えようのない清々しさに私は驚き、もう一度鳴らしました。すると、空気が引き締まったと思えるような不思議な感覚に気付いたのです。そして私自身が癒されたような、心に光が灯ったような気がしました。「おりんの音は光だったんだ!」おりんの音が響くことで、真っ暗闇で無音だった私の心に確かにあたたかな光が灯ったのです。ふたりのためのおりんで、まさか私自身がこんなに照らしてもらえるとは思いもよらず、ただただ感動したことを今でもよく覚えています。その日から、おりんの音と一緒に暮らしてきました。ふたりに話しかけ手を合わせる時、私の心がざわざわと何か話したがっている時、私はおりんを鳴らします。もし心と心を繋ぐ糸電話があるとすれば、おりんの音がその糸をピーンと張り直してくれているようです。そんな風に、心の波を整えてくれるので、私は安心して音に乗せて思いを届けることができます。ふたりを亡くしたことは今でも悲しいです。でも小さな命が教えてくれたことがたくさんあります。かけがえのないふたりの娘に会えたこと、今生きていることに感謝して、夫と手を取り合って人生を歩んでいきたい。そう思えるようになってきました。おりんの音に今日も願いをのせて。